最近ネットで、戦略家・マーケッターの森岡毅氏がゲストとして出演した番組「日曜日の初耳学」を観ました。
低迷していたUSJをV回復させた実績を持つ彼は、企業再生のプロであり日本を代表するマーケターです。番組では彼の書いた1冊の書籍が紹介されていました。
タイトルは「苦しかったときの話しをしようか」。
この本は、就職活動で悩む娘のために書き綴ったいわゆる「キャリア」の虎の巻だそうです。
自分もサラリーマンを何年もやってきましたが、キャリアのことを真剣に考え生きてきたかといわれると、胸を張って「Yes .」とは言えません。
この機会に、実績を積んだマーケッターとしての彼が、キャリアについてどう考えているか知りたくなりました。
そしてもう一つ、いま私の甥っ子がちょうど就職活動中なんです。
そんなこともあり、この本「苦しかったときの話しをしようか」を早速購入し読んでみました。
「人間の不平等(格差)」と「資本主義の本質」
マーケッターの視点で就活生に向けて書かれた本だけあって、彼のキャリアに対するアドバイスは、論理的でわかりやすく説得力ある内容でした。
やる気があってキャリアについて迷っている就活生であれば、すごく刺激を受ける本に違いありません。その内容については、あとで解説するとして・・・
その前に、この本の第2章「学校では教えてくれない世界の秘密」に、「人間の不平等(格差))」と「資本主義の本質」について書かれていた部分があります。
「サラリーマンを卒業したい」私としては、そこに強い興味を持ちました。現代の最強マーケッターが「人間の不平等」と「資本主義」をどう捉えているのか。すごく気になるところです。
そして、これがキャリアの話とどう関係あるのでしょうか・・・
まずはこの2つ「人間の不平等」と「資本主義の本質」について著者がどう考えているのか紹介したいと思います。
著者は「人間の不平等」についてどう捉えているか
著者は人間の不平等(格差)を「ワクワク」する現実だと、かなりポジティブに考えています。
それは何故か?
「人間は、みんな違って、極めて不平等」「知力の違いの格差は特に大きい」
たしかにこれは避けられない現実です。
だからこそ、先天的特徴、後天的な環境、その組み合わせはどれもユニークで、自分自身がそのユニークな特徴さえ認識できれば一人一人ひとりが特別な価値を生む可能性があるというのです。
著者は、その可能性に「ワクワク」するそうです。
自分の特徴(ユニークさ)を早く明瞭に認識し、その特徴が生きる文脈(環境)を探して泳いでいけば、その可能性は現実に近づくといっています。
「不平等」という変えられない現実の中で、自分でコントロールできる変数は「己の特徴の理解」「それを磨く力」「環境の選択」この3つだけ。これらにフォーカスして努力を積み重ねていくしかありません。
これが事実だといいいます。
これこそが、キャリア形成に必要な考え方のようです。
「不平等」⇒「ワクワク」
思っていてもなかなか言えないコトかなと思いますが、この考え方には私も同意です。
私も森岡氏と同じ理系少年だったので、これを物理的現象を解く数式の考え方に例えて理解しました。
つまり、キャリア形成という方程式を、現実という束縛条件のもとで解くのと同じです。与えられた定数や束縛条件は、自分では変えられないモノとして素直に受け入れなければいけません。
そのうえで、変えられるコト(自分が影響を与えられるコト)(=変数)だけに着目してこれをうまく調整し答えを導くしかないのです。
私も日頃から、これは重要な考え方だと思っています。何においても、過去や他人のせいにすることなく、自分が影響を与えられるコト(自分自身と今)、そこにフォーカスして対処することを意識しています。
そうすれば、有限な人生の時間を有効に使って有意義に過ごすことができる。
そう信じて実践しています。
次に、「資本主義」についての著者の捉え方を紹介します。
著者は「資本主義」についてどう捉えているか
彼は、資本主義の本質は人間の「欲」だと言っています。
資本主義は、人間の「欲」をエネルギーに、人々を「競争」させ、より多くの「欲」を満たすことで社会が発展していくルーブ構造をもっていると。
欲、欲、欲・・・・
非常に良くできているといっています。
これも現実ですね。
私もそう思います。
この「資本主義」に「人間は不平等」という真実が重なると格差が生まれる。
格差を認めるのもまた「資本主義」だと言っています。
著者は「資本主義社会においては、大きく分けると2種類の人間しかいない」といいます。
それは「自分の24時間を使って稼ぐ人と、他人の24時間を使って稼ぐ人」だと。
つまり「サラリーマン」と「資本家」のことです。
そして、「資本主義社会とは、サラリーマンを働かせて、投資家が儲ける構造のこと」といっています。
ん~これは、まさににアレですね。
「金持ち父さん」と「貧乏父さん」の世界のことですね。
さらにこう続けます。
「どれだけサラリーマン組織のピラミッドで偉くなろうと、年収を2000万円とろうと3000万円とろうと、その外にいる資本家から見れば歯車は単なる歯車だ」
「肩書きは、優秀な歯車を気持ちよく働かせて檻の中に閉じ込めるための呼称にすぎない」
辛辣です。
さらに日本の教育システムにも言及します。
「大量のサラリーマン(労働者)を生産するように作られている」
「規律ある優秀な歯車」を作るのに実に都合がいい」
「日本の教育システムでは、こういう視点を一切教えない」
と、たたみかけます。
つまり、学校は「ラットレース出場者養成所」ってことですね。
そして、著者は申し訳なさそうに、サラリーマンを「奴隷」のようなものと表現しています。
いいんです。
だって「サラリーマンは現代の奴隷制度」ですから。
それでは何故その奴隷であるサラリーマンがずっとサラリーマンで居続けるのでしょうか?
その一つの要因は「パースペクティブ」の差だといいます。
この本の中では「パースペクティブ」という言葉が頻繁に出てきます。
パースペクティブとは「本人が認識できる世界」のことと定義しています。
悲しいことに、人間は自分が知っている世界の外側を認識することができないのです。
例え目の前にあっても見えないのです。
つまり、「資本家」の世界に行こうと思えば行ける優秀なサラリーマンでも、本人の認識の中に「サラリーマン」以外の選択肢が無ければ、外の世界を知らずにサラリーマンとして一生を終えることになるのです。
著者はそう語ります。
だから、「パースペクティブ(本人が認識できる世界)」を広く持つこと。これがキャリア形成、ひいては人生の選択肢を拡げるために重要であると著者は何度も説いています。
著者はあるときこの資本主義の本質に気づき、大きな組織で偉くなることが全く魅力的に思えなくなったのだそうです。そして目的を達成するため、会社を飛び出し、独立への道を歩むことになったそうです。
(著者はUSJに転職した30代半ばまでこの「資本主義の本質」に気づけなかったそうです)
人間の不平等と資本主義の本質を知った後には、どんな可能性が開けるのか
この後のセクションには、人間の不平等と資本主義の本質を知ったうえで、そこにどんな可能性が開けるのかについて言及しています。
自分のビジネスをもつこと、資本家側に行く道があること、株式を買うこと、会社を上場させて売却益を得る方法、そして著者がUSJの経営再建で経験したストックオプションの話、その成功報酬を軍資金として起業した(「株式会社刀」という会社を作った)話などつづきます。
そして著者は言います。
「起業して資本家になる世界はとても大変なこと、社長という労働者も兼務しているから、サラリーマン時代の何倍も働いている。しかしそれに見合ったやりがいも感じている。そのエッセンスは、自分たちで道を選べる「自由」が手に入ったこと」だと。
ロバートキヨサキ氏の「キャッシュフロークワドラント」で言えば、著者は「S、B、I」の世界をまたいで活躍しているということになりますね。
もし私が就活生の時にこの本が存在して、この本に出会っていたら、ロバートキヨサキ氏の「金持ち父さん、貧乏父さん」を読んだときと同じような衝撃を受けたかもしれません。
ここで一つ付け加えておきます。
それは著者は個別株を売買しないということです。
理由は二つ。
一つはインサイダー取引の疑いを持たれないことです。
もう一つは、お金を増やすこと自体が目的化できず情熱が保てないからだそうです。
著者の欲は「知的好奇心を満たすこと」「戦略をひねり出し、世の中にぶつけ、世界がどう変わるか?」をみたいことだそうです。
彼の本書を読んでいると、知的好奇心と仕事に対する熱量がこれでもかと言うくらい伝わってきます。著者は根っからのビジネスマンなのでしょう。
そろそろキャリアについての話をしようか
そういえば、元はといえばこの本は、就職活動で悩む娘のために書き綴ったキャリアについての「虎の巻」でした。
せっかくなので、「人間の不平等」と「資本主義の本質」の中からキャリアに関係するポイントを独断と偏見でまとめてみます。ポイントは2つあります。
①キャリアのスタートは「人間は不平等(格差がある)」という事実を率直に受け入れることから始めるということです
神様はサイコロを振る。
人間は不平等であり、知力、身体的能力、人間の能力は千差万別。
「神様のサイコロで決まった「もって生まれたもの」をどうやってよりよく知り、どうやって最大限に活かし、どうやってそれぞれの目的を達成するのか?」
著者はそれがキャリアだといっています。
すなわち「キャリア」とは不平等な世の中で個人がどう生きるかという、人間の生き方そのものだということです。
②「パースペクティブ(本人が認識できる世界)」を広く持つことです。
著者が言うとおり、人間は自分が知っている世界の外側を認識することができません。
だから「資本家」の存在が目の前にあっても、自己の認識の中にその選択肢が無ければ、サラリーマンとして一生を終えてしまいます。
すなわちパースペティブの狭さが、将来の可能性を狭めてしまいます。
繰り返しになりますが「パースペクティブ(本人が認識できる世界)」を広く持つことが、がキャリア形成の選択肢を拡げ可能性を拡げてくれる。
このことが大事なポイントになります。
ところで
何度も言ってしまいますが、この本は元々就職活動で悩む娘のために書き綴ったキャリアについての「虎の巻」でした。
この本はマーケッターの視点で就活生に向けて書かれているだけあって、彼のキャリアに対するアドバイスは、論理的でわかりやすく説得力ある内容でした。
だから本全体のことについて書こうと思ったのですが、自分の興味がある「人間の不平等」と「資本主義の本質」の部分の説明に終始してしまいました。
キャリアの本を読んでも興味はこんな程度か、というのが私(サラリーマンを卒業したいオッサン)がダメリーマンたる所以でしょうか・・・。
なので、本書全体のことについては、また別の機会に書くことにします。
ここでは最後に著者がこの本をまとめた言葉を載せて終わりにしたいと思います。
「この世界は残酷だ。しかし、それでも君は確かに、自分で選ぶことができる!」
おわりに
300頁ほどの本ですが、キャリアに関する考え方や行動するためのエッセンスがギュッと濃縮されています。
現役ダメリーマンのオッサンでも読み応えがありました。
この本は、老若男女問わず、サラリーマンでもそうでない方にも、キャリア(これからの生き方)に悩んでいる人にはお勧めです。
そういえば就活中の甥っ子もこの本を買ったらしいです。
まだ感想などは聞いてませんが、どんな刺激を受け、どんな気づきを得たのでしょうかね。
そしてどう行動したのでしょうか。
また「人間の不平等」と「資本主義の本質」についての著者の捉え方についてはどう思ったのでしょうか。
気になります。
苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」
目次
はじめに 残酷な世界の希望とは何か
第1章 やりたいことがわからなくて悩む君へ
第2章 学校では教えてくれない世界の秘密
第3章 君の強みをどう知るか?
第4章 君自身をマーケティングせよ!
第6章 自分の「弱さ」とどう向き合うのか
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