木暮太一氏の「超入門 資本論」 (日経ビジネス人文庫)を読みました。
この本は、マルクスが150年前に著した資本論を基に、労働者として、これからの社会をより豊かに生きるための知恵を提唱しています。
なぜ、こんなに頑張っているのにいつまでたっても「しんどい」(仕事内容が給料に見合わないほど辛いと感じている状態の)生活から抜け出せないのか?という労働者の疑問に1つの答えを示してくれます。
こんな人にお薦め
・給料の少なさに不満を持っている人
・AIや機械の進化によって、この先の自分の雇用は大丈夫かと不安をかかえている人
・サラリーマンのしんどい生活から抜け出したい人
本の内容をざっくり言うと
商品の値段は「価値」と「使用価値」で決まる。
「価値」とは、商品を作るために使われた社会平均的な労力の大きさです。
「使用価値」とは、その商品を使うメリットです。
商品の値段(相場)は、大部分が「価値」で決まります。(基準値)
さらに値段は、「使用価値」の大小によって、基準値から上下1~2割程変動します。
サラリーマンの給料も商品の値段と同じように決まる
資本主義のルールでは、サラリーマンの給料(労働力の値段)も商品と同じように決まります。
労働力の「価値」とは
労働力を作るのにはお金がかかります。知識や経験を習得したり、体力を回復維持させるための衣食住などの生活に必要な費用です。これが「労働力の生産コスト」です。その基準額は「社会平均的に」必要な経費で決まります。これが商品の「価値」に相当します。
つまり労働者の「給料」は、彼らが知識や経験を習得したり、体力を回復維持して明日も会社に来てもらえるだけの社会平均的に必要な最低限の額(=労働力の生産コスト)しかもらえないということなのです。
労働力の「使用価値」とは
一方、労働力の使用価値とは、会社が労働者を雇ったときのメリット(利益)で決まります。つまり、
・能力が高く、会社に対して大きな利益をもたらす人は、使用価値が高い労働者
・能力が低く、成果を挙げられない人は、使用価値が低い労働者
ここで重要なのは、商品の使用価値がいくら高くても、値段が2倍になるようなことはなく上がっても1.2倍程度にしかならないように。労働者の能力が高く会社に2倍の成果を出したとしても、給料は1.2倍くらいしか上がらないのが普通なのです。
つまり、成果を挙げたのに給料が上がらないというのは、資本主義のルールからいうと、ある意味当たり前ということがわかります。つまり、「給料は労働力の生産コストに応じた必要経費分しかもらえない。いくら稼いでも、カツカツのしんどさは変わらない」のです。
いつまでたってもしんどい生活から抜け出せない理由は他にも有ります。
それは給料の使い方です。労働者の給料は、「仕事によって失われた精神的エネルギーを回復するための費用も含まれている」ということです。つまり、プレッシャーの高い仕事や責任が重い役職はその分給料が高いのです。つまり、昇給したとしても、それに伴って増えるストレスを解消するための必要経費として昇給分を費やしてしまうというのです。
これが、年収が増えても豊かになるのは難しい理由だというのです。
なんとなく心当たりありませんか?
また、給料が増えると、その分だけ生活レベルも上げてしまい、手残りが変わらないというのも、カツカツのしんどさの原因だと思います。
利益を求めるほど会社が苦しくなるのはなぜか
企業は、商品を生産する過程で、付加価値を生み、それが利益になります。
企業の利益になる付加価値を「剰余価値」といいます。
剰余価値を増やすには次の3つの方法があります。
①労働者を長時間働かせる。(絶対的剰余価値のUP)
②労働者の給料を下げる(下がる)。(相対的剰余価値のUP)
③生産性(単位時間あたりの生産数量)を上げる。(特別剰余価値のUP)
ただ現在では、ブラック企業などの問題もあり、①②による利益は生み出しにくいので、必然的に③生産性を上げること(特別剰余価値)で利益を出すしかないのです。
イノベーションを続けなければ企業は生き残れない
技術革新(イノベーション)や機械化によって生産性効率を上げて生産コストを下げる(価値を下げる)ことで、市場の価格がまだ下がらないうちに、その差額から得られる利益を「特別剰余価値による利益」といいます。この方法は、短期的に利益はでますが、時間とともに商品の値段は価値と同等まで下がっていくため、だんだん利益がでなくなっていきます。このようにイノベーションによる生産の効率化は、商品のコモディティ化(市場参入時に、高付加価値を持っていた商品の市場価値が低下し、一般的な商品になること)を引き起こしてしまいます。一方でイノベーションを起こせなければその企業は衰退していきます。これは、資本主義経済では必然的なことなのです。
著者は、イノベーションが起こると、人間の生活が豊かになる反面、仕事は分業化され機械化が進み、労働者の給料は減り、最後には職を失うか単純作業のみが残るといっています。
サラリーマン(労働者)として、雇用不安と「しんどさ」から抜け出るために実践すべきこと
著者は、このような雇用の不安と「しんどさ」から抜け出るには、昇給に依存しない生き方を考え実行することを勧めています。そのためには、自分の労働力を商品として見直し、その労働力を雇い主(会社)に売って得られる利益(自己内利益)、
自己内利益 = 年収 ー 必要経費(肉体的時間的労力や精神的苦痛)
これを最大化する必要があるといっています。
具体的には次のことに取り組むよう進めています。
・必要経費を下げること(社会平均より低コスト・低ストレスでできる仕事を選ぶ)を優先的に徹底的にとりくむこと。。
・同時に「テクノロジーを生み出し使う側」になる(雇われ労働者から抜け出す)こと、
・サラリーマンの評価体制から脱け出し(フリーランスのつもりで働き)、労働力の価値でなく労働力の使用価値(使う側のメリット)で評価を受けること。
この先の資本主義を生き抜く3つの方法
この先の資本主義を生き抜く方法とは、マルクスが資本論で描いた「労働者は資本家に搾取され、虐げられていく状況」を逆手にとった次の3つ。
①他にお金を稼げる手段を持ち、フリーランスマインドでいつでも動けるようにしておくこと。(変化耐性)、
②身につけた能力・知識・スキルを他の業界でも使えるようなものに磨きあげること。(能力の汎用化)。
③時間とコストをかけて自分の売りを作ること。(自分の売りの準備)。
感想
この本は、金持ち父さんのキャッシュフロークワドラントでいうと、主に左側の世界の話で、この先、E(労働者)がS(自営業;フリーランス)の視点やマインドを持って振る舞うようになることの重要性を説いているのだと受け止めました。
この本には、資本家側になるという話がほとんど出てきません。ただ一箇所だけ気になったところがありました。それは、これからは(ITなどの発達で)個人の資金力でも相応の技術を扱うことができ、利益を上げることができるようになる。つまり、マルクスの説(資本主義がすすむにつれて生産性を上げ利益を上げるためには資本は集中して企業が巨大化していく)とは逆に資本の分散が起こるといっている部分です。
著者は、だからこそ、フリーランスの視点で働くということが重要といっているのですが、私は、漠然とですが別のことを思いました。
それは、ITなどの発達で、個人の資金力でも、ネットの世界に、大きな収益を生み出す資産を築くことができるのではということです。(具体的にどんなものかわかりませんが)。資本が分散し、形が変わったとしても、これからも金持ち父さんのキャッシュフロークワドラントの右側の世界(ビジネスオーナー(B)や投資家(I)などの資本家の世界)としての道は、十分残されているのではないでしょうか。
ピケティも「21世紀の資本」で労働者より資本家の方がつねに金銭的に豊かであるといっています。(= いつの世も「労働所得の伸び率(g) < 資本利益率(r)」)
「21世紀の資本」に関する記事については ⇒ 「こちら(2018.12.29)」をどうぞ
労働者の「しんどい生活」から抜け出るためには「いずれは資本家になるように努力する」ということ。私はこれを4つ目の対策として付け加えたいと思います。
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超入門 資本論 (日経ビジネス人文庫)
目次
文庫版のためのまえがき
はじめに 年収1000万円会社員はなぜ「しんどい」のか?
第1章 なぜペットボトルのジュースは150円なのか?
第2章 年収1000万円でも生活がカツカツになる本当の理由
第3章 利益を求めるほど会社は厳しくなる
第4章 なぜパソコンの値段は下がり続けるのか
第5章 合格しないと生き残れない「命がけのテスト」
第6章 勝者だけが知っている生き残るための絶対ルール
第7章 『資本論』で読むこの世を生き抜く3つの方法
おわりに
著者 木暮太一
発売 2017年7月
発行 日本経済新聞出版
ページ数 256ページ
価格 850円+税